MLB Tour '98

★ニューヨーク編 8月29日★
NYで迎えた朝は爽やかだった。旅の疲れもなく弥次は早々とヤンキー・スタジアムへの準備をしていた。
一方、喜多はタイマツを左手に持ち替えて、まだのびている。

窓の外(ってったって、2階の部屋なので、すぐ目の前が隣のビル)を見ながら弥次はつぶやいた「オッ、ぬーよーくのモスキート(蚊)だ!」そこへ喜多が「ふぁ〜、良く寝たぁ〜い」弥次「ぐっ・もにぐ」

準備を整え、試合開始の2時間前にホテルを出発する。ヤンキースタジアムまでは地下鉄を乗り継いで行くのがベスト。よって弥次喜多はグランドセントラル駅に向かってテクテク歩いた。周りは見たこともない高さのビルが林立し、まるで自分が草の中の虫に思える。なんとか駅に着いたはいいが、あまりのでかさと広さに圧倒され迷子になりかけた。

弥次「おい!喜多さんや、どうすればいいんじゃ?」「うむむ、取りあえず、いんふぉめーしょんにでも聞くとすっか」と言って、黒人の案内係を質問責めにする喜多。
弥次「さっすがだねぇ〜。ホレボレするわい。ヤツに任せとけば安心だな」

喜多「あった、あった、これに乗ればいいんだ。おっ、弥次さん、乗るぜ」弥次「あいよ」
(しばらくして)
弥次は心の中で『ううう、なぁ〜んか景色が殺風景になってきたな。この先、野球場あるんかい?一人ぐらいヤンキースの帽子を被ったヤツが居てもいいと思うんだけど……。それとよぉ〜、目の前に座ってる客の目つきがどぉ〜もさっきから気になってるんだよな。ちょっとヤバクないか?』
ガイドを見ていた喜多が突然「弥次さん、ココで降りるぜ!間違えたみたいだ」弥次「マジかよぉぉーーーー」

下車した駅で女性の駅員に尋ねると……、やはり間違えていた。
今度は慎重にハナシを聞き、電車を乗り継ぐと、やっとベースボール・キャップを被った客が増えてきた。
こうしてようやく、試合開始1時間半ほど前にヤンキー・スタジアムへ到着。

盛んに喜多は「ココが“ルースの建てた家”かぁ」と感慨深げにこの言葉を何度も口にする。二人は球場の外をグルリと一回りして、胸、ワクワクドキドキの入場。

弥次「ばっくねっとから10mぐらいの最高の席じゃねぇか」喜多「えへへ、どうでぇ、満足したか」
弥次「うむ。でもよ、てれびに写るとすれば前の3席ぐらいまでがギリギリじゃねぇ〜か?」
喜多「パーフェクTVに写るには厳しいかもな」弥次「どりゃ、赤フンにでもめっせーじ書いて“ばな〜”でも作るかぁ。どれどれ、かもん!がるしあぱ〜ら!っと、もぉ、できたぜ」(突き刺さる視線が…)

ビール($5.25)とジャンボ・ホットドッグ($3.25)を手にしていよいよ試合開始。喜多はクラウド(マリナーズ)とペティット(ヤンキース)の対決に不安を隠せない様子。その予想が的中して序盤からNYの一方的な試合展開になってしまった!
弥次「おいおい、目の前のじいさん、棒に金属の皿、貼っ付けてスプーンでお客さんに叩かせてるが、有名人なんだろな。観客が列をなしてサインをおねだりしてるぜ」喜多「そうみただな。どれ、あっしも記念に貰ってこよっと」ところが、お行儀良く列に並んで待っていたにも関わらず、脇の男性から何か注意されている。
そしてサインも貰わずに帰ってきた。

弥次「どうしたぁ〜い」喜多「いえね、どうも真のヤンキース・ファンじゃないとくれねぇみたいなんだ」
弥次「なるほど、おめぇさんはグリフィーのTシャツ着てるもんな。諦めな。でも、あのじいさん、80は越えてるぜ。ディマジオやマントル、マリスを生目で見てきたんだろ。ルースも見てるかもな。それにしても俺たち、よくもこんな格好で来たもんだぜ。おれは、まだいいとしても(インディアンズTシャツ)おめぇさんは、もろ、ビジターのマリナーズじゃねぇか。風当たりの強さを少しは考えな」喜多「弥次も度胸がねぇぜ。Rソックスのシャツとキャップを持ってきてるのをちゃんと見たぜ。宿敵の前じゃ、怖くて着れないのか?情けねぇな」弥次「いや、そりは、ぼすとんに行った時のために残しときたかっただけだよ(モジモジ)」

カァ〜ン!ファウルボールが一塁側スタンドに飛び込んだ。何かに跳ね返って数メートル下のマリナーズTシャツを着た少年(10歳ぐらい?)がキャッチし大喜び。本来ならこれで終わるはずが、しばらくすると観客が騒ぎ始めた。どうやら打球は最初に5〜6歳の男の子の顔に当たり、そのボールをマリナーズTシャツの子がキャッチしたらしい。観客から「It's his ball」のコールが沸き起こり、無視できなくなった少年が男の子の元に歩み寄ってプレゼントした。これには場内から一斉に拍手大喝采。

 弥次「なかなかいい光景だな。少し、少年も可哀想だけどな。喜多よ、おめぇは大人だから、すぐ渡さねぇと生きてこの球場を出れねぇぞ。逆に、おめぇのドタマに当たったとしてもグリフィーのTシャツだからコールも起こんねぇだろ」喜多「てやんでぇ〜、おれはスーパーキャッチしてやらぁ〜」

唐突ではあるが、喫煙事情を某氏から調査するように言われた言葉を18346分265秒前に思い出した弥次は、突然、行動を始めた。

弥次「係員にでも聞いて、ちょっくら、煙草、吸ってくるわ」喜多「お、頼むぜ」
通路に出てすぐのところに金髪の係員がいたので尋ねてみる。
弥次「*■♂♀△タバコ♀■*スッパ♂♀■教えてケローー」係「オォ〜、イェ〜ス、*■♂♀△…」
弥次「さんきゅ、そ、まっち、ばいばい(ニコッ)」係「ハァ〜イ」(かぁわゆい)

弥次「うむむ、よくわかんねぇけど(笑)、えすかれーたーあっぷとか、なんとかって言ってたな。とりあえず行ってみっか(と、エスカレーターで上の階へ)ほほほぉ〜い、吸ってる、吸ってる、でもなんか変だな。灰皿がねぇぞ……、ありゃま、吸い終わったら下におっことして足でもみ消してるじゃねぇか。行儀悪ぃな。皆、そうやってるぜ。係の者も怒らねぇぞ。これがあめりか流なんだな。をっし、ほんじゃ、おれもそうすっか」

とまぁ、こんな感じでみんなタバコを吸っていた。真面目な弥次は、もちろん、床にポイっと投げ捨てるやり方に抵抗があったことを付け加えておく。
弥次「ちょっと待てよ、おいおい。おれの目の前で抱擁して接吻すんなっちゅうのに。こっちが恥ずかしくなっちまうじゃねぇか。あぁ〜、ディープだなぁ。誰か止めろ!」

赤面しつつ何事もなかったように自分の席に戻った。弥次「試合のほうはどうなってるんだぁ」喜多「随分、赤い顔してんな。ビールでも浴びてきたのか?」弥次「いや、その」

弥次と喜多の前には白人スティーブと黒人ミッチェルの二人が仲良く座り(名前は適当:以後もこの方式で勝手に名前を付けるのでマジにしないよーに)、盛んにジーターやペティットに声援を送っていた。それに反して、時折、マリナーズの選手がヒットを打つたびに一人歓声を上げる喜多のほうを振り向いてニヤニヤしていた。
点差も離れていただけに彼らは余裕の表情で「コイツ、東洋人の珍しいマリナーズ・ファンだな」とでも思っていたのだろう?

6回表、グリフィーのライトスタンド上段へ突き刺さる45号HRが出た。喜多が大喜びした時、彼らは「ウゥ〜、ウゥ〜」言ってこちらを振り向いた。弥次は思わず身構えたが、次の瞬間、なんと喜多と彼らがハイタッチをしてるではないか。弥次は心の中で思った「驚かすんじゃねぇ。でも、いいヤツらだな」

回も終盤に入り、喜多「弥次よ。スコアボードを見てみな」弥次「なになに」喜多「アナハイム対ボストンがまだ試合してねぇぞ」弥次「あっ、ほんとだ」喜多「もしかしたら、雨でも降ってて試合が止まってるんじゃねぇか」弥次「ってことは、明日は予想だにしなかった“だぶるへっだー”かも知れねぇってことか?」喜多「そうともよ。1粒で2度のおいしさって、これのことじゃねぇか」
弥次「まさか、まさか、まるちねすが見れるのかい?嬉しいねぇ。普段から精進していると、こんなにいいことが起こるんだな。へっへっへ」

※結果的には2度の中断ののち、ちゃんとゲームは行われ、弥次、万事休す。弥次の悔しさは計り知れないもの
 があった、クックク。まっ、そんな都合良く、ゲームがサスペンドするわきゃ〜ないと思ってたが…。

9回頃には点差もあって我々の前の客が次第に席を立ち始め、ココで喜多が一計を案じた。
喜多「ニフティーのフォーラムのみんなに約束した手前、何がなんでもTVに映りてぇなぁ」弥次「でも、監視員の目が光ってるぜ。さっきなんか、おれよ、攻守交代の時だからいいんじゃねぇかと思ってカメラ片手にワンショットだけでも写そうって前に行ったら、すぐに飛んできて制止させられたからなぁ」喜多「ふっふっふ、そんなことでめげる、おれじゃねぇってのは良く知ってるはずじゃねぇか。じゃ、な」と、すたこらさっさ、行ってしまった。

「連行されてボカスカにされなきゃ、いいけどな」と思った期待を見事に裏切り、かなり前まで辿り着いた喜多。弥次「なかなか、やるもんだ」
ビデオではまだ未確認であるが、もしかしたら、バックネット裏、画面の左側で手を振っている喜多の姿が映っているかもしれない。

てなわけで、8/29のツアー初戦はヤンキース大勝で終わった。

BOX SCORE

TEAM 3 4 5 6 7 8 9 R H E
SEATTLE 11
YANKEES × 11

勝:ペティット(15勝8敗) セーブ:なし
負:クラウド(8勝10敗)
本塁打: SEA グリフィー (45号ソロ:6回)
         モナハン  (4号2ラン:7回)
         A.ロドリゲス(38号2ラン:7回)
     NYY  ストロベリー(23号ソロ:4回)
         ジーター  (17号2ラン:4回)
主審:エリック・クーパー
気温:27.8℃ 天候:晴れ 試合時間:3:26 観客数:55,146人


試合が終わって一斉に55,146人の観客がゲートに向かったのでは、パニックになって、将棋倒しになると思った弥次は(笑:実のところは単に名残惜しくて去りがたかっただけデス、ハイ)マリナーズ・ダグアウト周辺に人垣ができているのを見つけた。

弥次「おい、喜多よ。なんだろ。行ってみっか」喜多「はいな」(そして急ぎ足で近づいた)

喜多「ありゃりゃ、サインしてるじゃねぇか」弥次「誰だ?」喜多「モナハンって字が読めねぇか?」弥次「“おはなはん”なら知ってるが“もなはん”は知らねぇな」喜多「やっぱ、モナハンだ、モナハン。オタグラフ・プリージ!」(しばらく粘る)
弥次「ちょっと厳しいぜ、オレたちの記念写真でも撮って帰るか」喜多「そうするか。人もだいぶ減ったしな」弥次「あばよ、やんきーすたじあむ」喜多「あばよ。また来るぜ」

ヤンキー・スタジアムを後にした弥次喜多は、メッツのオフィシャル・ショップを目指した。帰りの地下鉄は間違うことなく順調に進んだのだが、電車を降りて地上に出た時点で、全くの方向音痴になった。喜多「だいたい、ここが○○ストリートだからあっちのほうへ行けばあるんじゃねぇかな」弥次「そうさなぁ。ぬーよーくは碁盤のようになってるから、わかりやすいぜ」と言ったものの、なかなか、お目当てのショップがみつからない。20分ほどうろついた揚げ句、やっとのことで看板を見つけた二人は大喜び。

メッツの上等なキャップを息子に買ってくることを約束していた弥次はスキップを踏みながら階段を下りた。
ドアを開けようとした喜多が赤い顔をしている。
弥次「おいおい、こんなところで何をふんばってるんだ。早く中に入ろうぜ」喜多「そりが…開・か・な・い」弥次「なんでや?まさか、閉店したんじゃ、あるまじろ?」喜多「そんなアホウドリ」
弥次「明日はもう、ぬーよーくとおさらばだぜ。息子のおみやげはどうしてくれる。よっしゃ、この際だから、中にいるあんちゃんに交渉してみるぜ」(ウィンドウ越しに弥次がジェスチャーを始めた。時計に指を差した後、両手でバッテン印を作ってみる。通じたとは思うのだが、あんちゃんは笑ってるだけでドアを開けるそぶりが全くない)

弥次「諦めるか、せっかく、売り上げを伸ばしてやろうと思ったのによ。欲のねぇヤツだな、来年また来っからな」と捨てゼリフを(心の中)で吐いた。

弥次は息子の他に職場のモンからお土産の宿題を出されていた。それもMLBグッズならまだいいが、NHLのスタジャンだからタチが悪い。NHLの知識がほとんどない弥次は困りつつ、喜多へ「後生だから、あそことあそこへ行ってくれねぇか?」と頼んだ。喜多は「あいよ」の二つ返事。やっぱ、喜多はいい相棒よのぉ〜。

だが、お目当てのものを結局、見つけることができずホテルへ戻った。夕食はヤンキースの大選手だったミッキー・マントルが経営していた『ミッキー・マントルズ』で豪華に。この店はスポーツバーの雰囲気が漂い、お酒や食事が出来るのだが、ヤンキースのスーパースター達のグッズなども売られておりスーベニア・ショップにもなっている。ジョー・ディマジオのサインボール($495)を見つけた時は思わず手が出かけたが、グッとこらえて諦めた。また同じ値段でリチャード・ニクソン元大統領のサインボールもあったのには驚かされた。

弥次「腹も満たされたし、ほてるにでも帰ってゆっくりするか」喜多「そうさな、テクシーを拾うぜ(辺りをキョロキョロ見渡して)う〜ん、来ねぇなぁ。取りあえず、道路の反対側に渡るか」と、『ミッキー・マントルズ』前の道路を隔てた向かいのセントラルパーク側に渡った。
弥次「お〜い、馬車が来るぞ、気ぃつけな。あと、馬の落としモノにもな」

テクシーを懸命になって探している喜多とは対照的に弥次は暗闇の中のセントラル・パークを覗き込んでいた。弥次「なんか気持ち悪ぃな。お化けでも出そう、ひぇ〜」喜多「おい、こっちはダメだ、また、道路を渡るぞ」弥次「また戻るのかい」喜多「急いで渡んねぇと車にひかれるぞ」

喜多「おっ、来た来た。へぇ〜い、テクシ〜」(キキキ〜)
喜多「ふぅ〜。やっとつかまったぜ。ホテルに帰ったらゆっくりするとすっか…、あれれ?弥次さんや」弥次「なんじゃい」喜多「このテクシーのドライバーの名前、フセインさんだ!きゃほほぉ〜い」
弥次「えっ!ほんとかい?」喜多「ほら、ココ(運転手登録証)見てみな。サ・ダ・ム…じゃなかった、ガルサー・フセインって書いてあるぜ」弥次「こらこら、そんな大きな声で言うなよ、聞こえるじゃねぇか」

すると、まさしく聞こえたらしく、信号待ちしている時、後ろを振り向いて弥次をジッと睨んだ。よくよく、お顔を拝見すると中東方面の“お顔立ち”である。弥次は睨まれた状態のまま「やべぇ〜、少し気にしてんのかな。それにしても似てるなぁ」と思った。もはや、ヘビに睨まれたカエル状態。これにはさすがの弥次も冷や汗が出始めた。どうしていいものやらわからず、とっさに出たリアクションは、ニコッと笑ってハァ〜イのポーズだった。これにはフセインさんも納得していただけたようで「フッフフ」の笑い声を上げて、再び、車を発進させた。

弥次「ふぅ〜〜〜、(小声で)よけいなこと言うなよ。オ○ン○ンが、縮んぢまったじゃねぇか、こら、喜多」喜多「ハッハッハ、すまねぇな。だって、まさかこんなところでフセイ…、おっと、また聞こえりゃ、まずいな」

こんなふうにして、無事、ホテルまで到着し、ぼったくられることもなく正当な請求を受け、そして、正当な支払いを済ませ、車を降りた。我々は極めて友好的なムードで別れることができた。
喜多「なぁ〜んだ、フセインさんは良い人じゃねぇ〜か」弥次「ったく、冗談じゃねぇぜ、オレの身にもなって、みろっつんだから」喜多「悪ぃ悪ぃ。でも、これ、いい土産話になったぜ」
この後、ホテルでは前日同様、西海岸のMLBゲーム生中継を酒の肴に酒宴が行われたのは言うまでもない。


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