MLB Tour '98

★ボストン編 8月31日★
ボストン滞在2日目の朝。19階から望む市内は小雨が降っていた。
窓から外を臨むと、前方にはゆったりとした流れのチャールズ川が、そしてゴシック風建築の古い建物が見え、ココはアメリカではなくヨーロッパなんじゃないか?と見間違うほどの風景が広がっている。

今日は3試合目にして初のナイト・ゲームなので、日中はボールパーク・ツアーとクインシー・マーケットでの買い物を予定している。

喜多「ボールパーク・ツアーは予約が必要なんじゃねぇか?」弥次「どれどれ(と、フェンウェイのパンフレットを見て電話番号を探しだした)。一応、ココに電話してみればどうだ?」喜多「そうさな」(ピ・ポ・パ・ペ・ポ……ツルルルル〜)喜多「ハァ〜イ、グッ・モニグ。ペラペラペラ〜ラ」(ガシャ)
弥次「はいやぁ〜、驚いたぜ。おめぇの英語もたった3日間の間に随分上達したもんだ」喜多「いや、実は留守電だった」ドデッ。喜多「でもメッセージは入れといたから、まずは出発するか」弥次「………」

ホテルを午前11時前に出てバーガーキングに立ち寄り、遅めの朝食ハンバーガー($4.13)を食べた後、コプレイ駅へ。前日と同じルートを歩めばいいのだから迷う心配もなくスイスイと足取りも軽い。

弥次「随分、学生の多い町だなぁ」喜多「そうそう、ボストンはかなりの数の大学があるんで(はっきりした数を教えてもらったんだが失念してしまった)若い人が多いんだよ」弥次「東洋系の顔も多いから、なんか安心感があるな」喜多「皇太子妃の雅子様もハーバード大学に留学されていたから、もしかしたら、俺達がさっき入ったバーガーキングのハンバーガーにガブリついてたかも知れねぇぞ」弥次「へぇ〜、そうなのかい。エリートの卵が世界からココに集まっているといっても過言じゃねぇんだな」喜多「そうさ」弥次「おれもハーバードに来るべきだったんだよなぁ」喜多「おめぇには無理だよ」弥次「シュン」

フェンウェイ・パークのあるケンモア駅へ到着。
弥次「どれどれ、今日は“ぐりーんもんすたー”から高速道路までの距離を測ってみるか」前日は喜多さんも計測したのだが今日はちょっと違う場所から。レフトのコカ・コーラの看板付近から高速道路までを歩幅で計測。

弥次「一歩、二歩、三歩……。結構あるな」(次第に倉庫と倉庫の間へ。約4〜5mの間であるが、両脇がやや物騒で気持ち悪い)弥次「63歩っと。ふぇ〜、おれは喜多さんとは背丈が違うから一歩が約50cmだとして31.5mかい?ただ、ココは金網が張ってあって、あと、先には進めねぇし、高速道路までの間に電車のレールが2本走ってるなぁ。目測で12mを足して43.5mだなぁ。おっし、決まり!戻るか」(と、喜多さんの元へ戻る)
喜多「御苦労さん。ヤバクなかったか?」弥次「ちょっとな」喜多「おれは、ハラハラしてたぜ。脇から悪いヤツが突然出てくるんじゃねぇかと」弥次「そんなに物騒だったか?」喜多「まぁな」

まもなくツアーの受付があるDゲートに到着。
喜多「*■♂♀△」受付嬢のヘレン「△*♂♀■」喜多「オォ〜・マイ・ガ」
弥次「どうしたい?」喜多「いえね、留守電に入れておいた予約のメッセージが届いてねぇみてぇなんだよ」
弥次「んで?」喜多「でも、ツアーには参加できるみてぇだからチケットを買うぜ。二人で$10だってよ」
弥次「あいよ。でも一人$5とは随分安いな。今日は割引の日かな?ルンルン」

正午前開始のツアーまで少し時間があったため、近くのスーベニアショップに入る。店内は今朝届いた追加分の
商品の荷ほどきが行われ、客は我々二人だけ。昨日はたくさんの客でごった返していたが、時間が早いこともあり、貸し切り状態である。弥次がTシャツやスウェット・シャツを購入している間、ふと、喜多さんのほうに目を向けると何やら面倒くさい顔をしてプリクラのボックスの中に入っている。

弥次「おいおい、年がいもなくプリクラかい?」喜多「恥ずかしいから人には言わねぇでくれよ」弥次「そんなこと言ったってダァ〜メ、全世界に公表するぞぉ〜〜」喜多「お願ぇ〜だ」弥次「うんにゃ、書いちまう。皆さん、喜多さんは、顔の表情がなかなか決まらないと、何回もシャッター・ボタンを押してましたぜ。しまいには機械に『あとの方に迷惑ですから早く決定してください』と日本語のメッセージで注意されてましたよ」
喜多「そこまで書かなくても…」弥次「この辺で止めとくか、ハッハハ」

ツアーが始まり、40歳代のブレンダがエスコート。一行は約30名ほど。車椅子の方もいる。NYでも気がついたのだが、球場内のいたるところで障害者の観戦している姿が目に付いた。街中を走る路線バスにも車椅子可のシールが張られ、日本よりは障害者に対する環境が整っているようだ。

さて、ツアーに話を戻すと、まず、バックネット裏最上段の席に座らされ、ブレンダは流暢な英語でRソックスの歴史を語った。約10分ほどの説明の後、個室→600クラブ→ 放送ブース → 記者席 と案内され、いよいよ、グラウンドか!と思ったところ、オフィシャルのスーベニア・ショップへ通され、おしまいとなってしまった。

弥次「あれ、あれ、あれ?」喜多「ダグアウトは?ブルペンは?ストライク太郎君は?間近に見るはずだったグリーンモンスターは?」弥次「そう言やぁ、受付のところに貼ってあった案内に『本日は朝からの雨のためツアー・スケジュールを短縮します』みたいな英文を目にしたなぁ」
喜多「ゲゲゲ、ホントかい?」弥次「もしかしたら、それで料金も一人 $5 と安かったんじゃねぇか?確か $10が正式な料金だったもんな」喜多「しょうがねぇな、諦めるか」
朝方、降った雨はすっかり止んで強い日差しが照りつけているだけに残念だった。

ツアーは実に濃くて、味のある内容だった。床や梁などに残った深いキズひとつひとつに大リーグの歴史を感じることが出来、貴重なボールパークを見れたことに大感激である。

グラウンドへの突入を諦め、仕方なく(笑)スーベニア・ショップでメチャクチャ買いまくった後、一旦、ホテルへ。土産を部屋に置いて身軽になったところで、またまた今度はクインシー・マーケットへ。この時、ホテルの出口でマリナーズのキャップを被った小太りのデービッド少年(12歳ぐらい)を発見。喜多さんは、盛んに“ケン・グリフィー・ずにあ”が通ったかどうか情報収集。ホントはずっと張り込みをしていたかったのではなかろーか?

下調べをちゃんとすればいいのに、行き当たりばったりの弥次喜多一行は、クインシー・マーケットにもすんなりと辿り着けなかった。いつも我々は「なんとかなるさ」なのである。まぁ、それでも、どうにか見つけて、MLBグッズ以外のアメリカらしいお土産を喜んでくれる人たちへの買い物を済ませた。

またまた、ホテルに戻り、荷物を置いて、午後5時前、フェンウェイに向けて出発。

今日は、三塁側の内野席。早めに球場入りしたため席を確認した後、前2試合でできなかった選手との交流作戦を決行することとなった。

「おいら、ちょっと前に行ってくらぁ」の言葉を残してマリナーズ・ダグアウト付近までスタスタと喜多が歩いて行った。弥次も後を追う。目の前にピネラやビューナーが……(興奮状態)。

なかなかこちらに駆け付ける様子がないので、弥次はバッグから双眼鏡を出して、一塁側のRソックスのダグアウト周辺を偵察してみた。そこには群がるガキんちょどもの姿。「誰だろ?」と背番号を確認してみると#45。「あ!?ペ、ペ、ペドロォ〜じゃぁ〜ねぇ〜かぁ〜。アワワワ」喜多さんに言葉をかける間もなく弥次は一目散にバックネット裏を通り抜け一塁側に走った。手にはサインしてもらうためのボールを握り締めて。

ガキんちょどもは座席の上に“行儀悪く”土足で上がり、誰かのサインが終わると、手を上げて自分を指名してくれるように悲痛な叫び声を出している。これに弥次がならったのは言うまでもない(笑)。サインしている間はものすごく静かなのだが、し終えるとワーワーギャーギャー。

弥次は自分の年齢のことをふと考えたが、気がつくと真正面(彼まで約3mほど)にポジションを取り「ペドロォ〜!あい・かむど・ふろむ・じぱんぐ。おたぐらふ・ぷりーじ!」と泣き叫んでいた。だが、どうも子供をターゲットにしているようで、弥次とは、なかなか目が合わない。20分ほど粘ったが、結局、時間切れとなり、ゲット成らず。

弥次「う〜ん、残念。でも、ヤツは随分丁寧にサインしてたな。いいヤツだぁ。しっかし、これもグラウンドと観客席を仕切るネットがないからこそ、こんなに近くでスター選手との交流が可能なんだなぁ」と感心しながら自分の席へ戻った。

※前日のゲームでもRソックスのダグアウト周辺に人垣ができ、その中心人物を確認したところ、SFジャイアンツ前コーチのウェンデル・キム コーチだった。彼もまた熱心にサインをしてた。今季は三塁のベースコーチを任せられ、攻守交代の時、(彼なりの決して速くない)全速力でベンチに戻っては拍手喝采を浴びていた。人気者のようである。

さて、今日のゲームは、前日、長谷川の勝利と引き換えに喜多さんがRソックスの勝利を約束してくれた対マリナーズ戦。先発はセイバーヘイゲン対ファセロ。個人的にはとても見たかった両投手だっただけに好投を願った。

試合のほうは3回まで予想通りの投手戦となったが、4回裏、ファセロがそれまで3者凡退できっちり抑えていたのに突然、崩れた。無死満塁で4番のガルシアパーラが登場。今では3番のヴォーンより人気者と思える歓声の中、あわや満塁HRという犠牲フライで先取点。続く暴投で2点目を上げ、Rソックスはリードした。
このゲームからスコアをつけ始めた弥次は大喜びである。

喜多さんが“タバコ・イニング・ストレッチ”で席を外している間の5回裏、ちょっと目を離したスキに何が起きたのかわからないプレーが発生した。

弥次「ありゃりゃ、1番バッターのD.ルイスが、なんで打ったのに一塁へ走らねぇんだろ?」と思ってたら、左隣にいたオマリーさん(元ヤクルトにいたオマリーに似ている)が弥次のスコアを見ながら何やら話しかけてくる。
オマリー「キャチャー・ナンバー2・*■♂♀△*■♂♀△*■♂♀△」
弥次「ムム?何言ってんだろ?参ったなぁ。おれのスコアの付け方に文句つけてんのかな?取りあえず、言っとくか。いっつ・まい・すたいる・じゃ〜!」
オマリー「*■♂♀△……」
弥次「随分、熱心に話しかけてくるな?もしかしたら、今のプレーについて説明してくれてんのかな?オオッ、ルイスの打球がキャッチャー前のボテボテのゴロで……それをキャッチして………送球して………アウトになった……んだって?……。親切に説明してくれてんだなぁ。あぁ〜、それなのに、おれは、いっつ・まい・すたいるだなんて言っちまって悪いことしたなぁ。ミスター・オマリー。あいむ・あんだすたんど。さっきは、あいむ・そーりー」
オマリー「フンフ〜ン」弥次「わかってくれたみてぇだなぁ」

弥次「しっかし、周りの人はスコアの付け方に注目してんだなぁ。こりゃ、変な書き方できねぇぞ」
これをきっかけに以後のゲーム(2試合)は真面目にスコアを付けることとなった。前の2試合は、MLB初生観戦からくる興奮からスコアはそっちのけ、ビールがぶのみで無駄に過ごしてしまったのが今となっては悔やまれる。

そうこうして回も終盤に入り、8回表、ちょっとした出来事が起こった。マリナーズの3番 A.ロッドの打ち損じたライナー性のファウルボールがこちらに向かって飛んできた。ピピピッの笛など吹かれるはずもない。

弥次「うわぁ〜、来たぁ〜」

ヒーローになる絶好のチャンスと思ったのも0秒90、少し弾道がズレて、オマリーさんのほうへ。彼は一度、手に当てたものの掴み損ねて、階段のほうへコロコロと転がった。ドワァァ!〜〜と群がる他の連中なんぞに渡してなるものかぁぁぁ〜〜とでもいう鬼の形相で彼はボールを追い、見事、自分のモノとした。弥次喜多は、大はしゃぎである。
弥次喜多「イェ〜イ。ゆ〜・あ〜・すーぱー・ひーろー!イェ〜イ」と二人はそれぞれ左手を高く上げてハイタッチを要求した。オマリーさんは、今にもこめかみの血管が切れそうな興奮状態でパシ〜ンとタッチを返してきた。思わず、弥次「イテッ!」   肩が外れるかと思えるほど力のこもったハイタッチだった。

よく見ると、彼の右腕と右足(短パンをはいていた)は打撲傷、擦過傷によるキズだらけで血がうっすらとにじんでいる。
弥次「あー・ゆー・OK?」オマリー「オォ〜、イェ〜ス」弥次「ぼーる・見せて?ほんで、ぴくちゃ〜・取らせて」オマリー「オォ〜、ヤァ〜」

ボールを手に取ると、バットでこすった黒い流れる跡がしっかりと残っていた。すげぇ〜。カメラを向けると、オマリーはニコリともせず、自慢気にポーズを取った。彼の脇にいる子供達(スティーブとマクマイケル:二人とも16〜17歳ぐらい)は「しょうがねぇオヤジだなぁ。フフフ」みたいに写真に収まっている。
この出来事は弥次にとって、非常にインパクトのあるものだった。もし、ウチのガキどもを連れて球場に出かけ、万が一にもファウルボールをキャッチするようなことがあった時、是非、オマリーさんのようなオヤジを見せつけたいと思わせる衝撃を与えてくれた。オマリーさんよ、サンキュ。

8回が終わるとオマリーさんが「今日はこれで帰る。明日が早いもんで。お前さん達も無事な旅行をすることを願っているよ」と優しい言葉を残して席を立った。
弥次「おやまぁ〜、それは残念だなぁ。さみゅえる・あだむす(ボストン名物の地ビール)でも御馳走しようと思ったのによぉ」オマリー「バァ〜イ」弥次喜多「ばぁ〜い」

弥次は思った。朝が早いなんてのはデタラメで、早く家に帰って嫁のスーザンに自慢のボールを見せたかったというのがオマリーの本音じゃないか?って。

試合のほうは2番手のエカーズリーとゴードンがきっちり抑えて、喜多さんとの約束通りRソックスが5対1で勝利。今日もガルシアパーラの2ランHRが見られて大満足。

帰り際、球場の外で名残り惜しみながら一人煙草を吸っていると(喜多さんは近くのスーベニアで買い物)一人の若者ジョージが声をかけてきた。

ジョージ「今日は良いゲームだったなぁ」弥次「そうさなぁ。楽しかったぜ」ジョージ「タバコを恵んでくれねぇか?」弥次「おっ、そうか、早く言えよ。遠慮するなんてアメリカ人らしくねぇ〜ぞ。コレはな、じゃぱにーずの煙草だが、それでもイイんかい?」ジョージ「構わねぇよ」弥次「ほら、持ってけ」ジョージ「すまねぇな」弥次「いいってことよ。またな」

BOX SCORE

TEAM 3 4 5 6 7 8 9 R H E
SEATTLE
BOSTON ×

勝:セイバーヘイゲン(12勝6敗) セーブ:なし
負:ファセロ(10勝11敗)
本塁打: BOS ガルシアパーラ(29号2ラン:6回)

主審:ラリー・マッコイ

気温:25.6℃ 天候:晴れ 試合時間:2:32 観客数:28,553人


ゲーム終了後、ホテルに戻ると、なんか見覚えのある顔が目の前を歩いて行った。おっかしいなぁ〜と思ってると、なぁ〜んとマリナーズの選手が私服で通り過ぎるではないか。そう思っているところに、突然、超有名スターが現れた。アレックス・ロドリゲス!!喜多さんは慌てて、駆け寄り、サインと写真をゲットした。


NEXT