あすぱむ徒然草

日 時
11/08〜09
 竜飛マグロ漁体験
 自分は釣りをするわけでもなく、ただ単に船に乗って見学するだけだというのに、前夜はなぜか異常に興奮し、寝つかれなかった。午前5時半、三厩村の水嶋船長宅に駆け付けると、明かりが灯る作業部屋で、船長は既に黙々と仕掛けのチェックをしていた。

 午前6時、夜が明けた竜飛漁港を第七光洋丸が出港。目指すは津軽半島の西側、小泊沖(こどまりおき)である。約30分の航行ののち、エンジンを停止させてまず先に始まったのが、マグロのエサとなるフクラゲ釣りだった。船尾の両端から仕掛けをひとつずつ海に投じて、しばらく船を走らせるとコンコンとアタリが……。擬似餌に反応した約50センチほどのフクラゲが上がってくる。船中のイケスに移して、再び、仕掛け投入の繰り返し。午前7時半、都合8匹のフクラゲを確保し、いよいよ、マグロの漁場へ移動することとなった。
 船舶無線には既に「マグロと格闘中だ」との一報が入っていた。格闘してからだいぶ経った頃、嘆きの声が無線の奥に響いた。約90分のやり取り後、ようやく5m近くまで引き寄せた時、無念のバラシをしたのだという。でかい魚体が見えただけに悔しがることしきりだった。

 快晴の8日はたくさんのマグロ漁船が出動した。小泊、宇鉄、今別など付近の漁港はおろか、遠く北海道の松前からも来ているのだいう。ザッと数えたところでは約50隻。船尾から仕掛けを100mほど流して航行しながら釣るため、常に周囲に注意を払っていないと衝突、あるいは、船が仕掛けを巻き込む事故も起こるらしい。

 船乗りの視力の良さには驚かされた。こちらは双眼鏡で付近の船の動向を観察しているというのに、船長は裸眼で「あそこでマグロが釣れてるな」と鋭く指摘する。揺れる船の中で双眼鏡を覗くのは船酔いの危険があったが、目を凝らして必死になって見てみた。なるほど、確かに仕掛けを一生懸命に引いている姿が目に飛び込んできた。
 まもなくしてマグロの魚体も見え、頭部めがけてモリが放たれた。間違えても商品価値の高い、どてっ腹に打ってはいけない。赤い血しぶきがパァ〜〜ッ!と飛び散り、マグロの抵抗は終わった。40キロほどのマグロだと船長が言う。小さい部類だそうだが、それでもかなりでかい。休む間も無く“サイカツ”という内臓を取り除く作業に入った。手さばき良く終えると、その船はすぐにまた次の獲物を狙って仕掛けを海に投げ入れた。

 マグロの釣り方にはいくつかの方法があるらしいが、水嶋船長のは“引き釣り”。
 フクラゲやサバなどの生き餌の背中に22号ほどの針を通し、70〜80号のハリスを25m、それを更に強度のあるラインと結束させ、トータルで100mを海に流す(時には75mにするなどいろいろと工夫する)。100mの目印部分を船尾上部のポールに細目の糸で結びつけて、ポイントを低速で走り回るのだ。
 獲物がかかると、細い糸がプッツンし、ラインがビュンビュン出ていく、という、いたって単純な仕掛けである。

↑朝6時、いよいよ出漁。前日は荒天のため出漁できず、待ってましたとばかりにたくさんの漁船が繰り出した。
↑船の底から取りだしたのは、フクラゲ釣り用の仕掛けだった。赤いウキと5本の擬似餌付き針がワンセットになっている。
↑船尾の両端から仕掛けを投入し、流し釣りをする。ウキの沈みに注意を払い、潜ったと判断したら引き上げて収穫する。
↑予め用意していたフクラゲの他に3匹ほど追加した。8匹もあれば万全だ。1匹で2時間ほど活躍してくれる。極めて弱りにくい魚だと思った。
↑約1時間のフクラゲ釣りが終了し、いよいよ、本番のマグロ漁にとりかかる。イケスから最もイキの良いと思われるフクラゲを物色する。
↑大物の可能性も日毎に高まっていることから、今日はいつもより若干太めの80号のハリスからスタートした。
↑大きいマグロとの格闘になると、針と糸の繋ぎ目に負担が最もかかり、その結果、切れて取り逃がす事が多いという。この結束部をいかに丈夫に作るかが、キーだという。
↑フクラゲの背中に針を通し、期待に胸膨らませる瞬間。
↑海中に投じられたフクラゲは自由の身になったと錯覚してか(笑)、元気良く、泳ぎだした。
↑青いカゴにはラインが300〜400mほど入っている。大物が掛かると、果てしなく糸が出て、このカゴも空っぽに近くなるという。
↑100mの目印が現れたら、その部分を船上部のポールに細い糸で結びつける。
↑赤い丸で囲った部分のピンク糸が切れた時、まさに感動の時が訪れる瞬間である。この後は物凄いスピードでラインが出ていくそうな。
↑大物がかかると、この機械の助けを借りるのだが、時には、仲間に無線で助けを呼び、自船に乗り移って貰って二人三脚で格闘もする。この場合、取引値の○%を助けて貰った人に支払うルールも確立されてるという。
↑漁の終盤で打つモリ。商品価値の高い部位は避け、頭部めがけて打たなければいけない。しかし、直前でジャンプされて失敗することも時にはある。当然、価値はグッと下がる。慎重に行なわなければならない作業だ。
↑200〜300キロの大きなサイズが掛かれば、すぐさま漁港に戻るが、40〜50キロクラスであれば、このクーラーに格納して、次の獲物をすぐ狙う。
 タコカゴ漁で気分転換
 お天気が良くて、ポッカポカ陽気で、海は凪。こんな状況下、マグロが見られれば最高なのだが、なかなか“例の糸”が切れない。

 午後1時前、気分転換でもするかと、10個のタコカゴを仕掛けたポイントへ向かった。時期的にはまだ早いとのことで、数がさほど上がるとは期待できないが、1週間前に仕掛けたエサ(塩漬けしたサバ)が、もう無くなっていると考えられることから、新しいのと交換がてらに見てみてはどうかとの船長の提案だった。
 ポイントに到着すると、たくさんのブイが浮かび、それぞれに2つの旗がついてて色分けされている。これで誰が仕掛けたカゴなのか判別できるようになっているのだった。上が緑で下が赤の旗が水嶋さんのである。旗を捕まえ、ブイを引き上げ、あとはウインチでロープを巻き上げると、海底から約2mほどの大きな丸い鉄製のカゴが姿を表した。期待できないとは言ったが、7〜8匹のタコと、クラゲ、小マダイ、シマダイ、ベラ、ネコザメ、イカのタマゴ等が入っていた。一つのカゴに約10分、トータルで2時間弱の作業だった。

 終盤の頃になると、無線が妙に騒々しくなってきた。先ほどより北のポイントでマグロのジャンプが始まったとのこと。我々は急行した。

↑海に浮かぶいろいろなブイや旗。磯釣りをしながら、普段から疑問に思っていたが、今回は一つだけナゾが解けた。
↑これから最盛期に向かうタコ漁。カゴの中には、まだ本命タコは多く無いが、数多くの外道で溢れていた。
↑まずまずのタコ。現在は10個のカゴを仕掛けているが、今後は20個まで増やすとのこと。
↑招かれざる客、ネコザメ(約40センチ)。あるカゴには20数匹が入っていて、思わず船長も「ウワァ〜」。
↑時期的に珍しいイカの卵。虫のように見えますが違います。とても柔らかいチューブ状の1本1本の中に、これまた柔らかい円形の透明な5ミリほどの卵が4〜5個入ってました。
↑必要とされない魚がカゴから海中に投げ出されるため、カモメが寄ってきて、船べりで休憩するようになりました。
 第2ラウンド
 午後3時前、噂のポイントに到着。いやはや、確かに物凄い「マグロショー」が開催されていた。まるで水族館で見るイルカのショーのように大きくジャンプしているではないか。船舶無線も声が弾んでいる。ただし、掛けている船が見当たらないのが不思議だ。あざ笑うかのように船の近くでハイ・ジャンプする不届きモノも出る始末。

 まもなくして、シイラを追いかけていることが判明し、諦めムードもチラホラ。マグロはシイラに夢中で、フクラゲには見向きもしないらしい。とはいえ、めったに見られないジャンプに満足したのでした。

↑なかなかシャッタータイミングが難しかったが、苦労の末、やっと撮れたのがこの一枚。
↑船の目の前で、ジャンプするとは、漁師に対する挑戦か?
↑長い一日が終わろうとしていた。半日の海上生活は楽しくもあり、寂しくもあった。
 第3ラウンド(翌9日午前)
 第2ラウンドが終わり、そのまま帰宅の途につくのは心残りだったため、もう一日粘ることに急きょ決定。水嶋船長から優しく「泊まって行げ!」と言われたことも起因している。手厚いもてなしに感謝しつつ、午後11時、床についた。

 明け方の3時過ぎ、なにやら、外で音がするので目が覚める。ピカゴロゴロゴロ……。
 あらま、雷だ。しかも激しく雨も降っている。内心、出漁は無理かも・・と思いつつ、うとうとして朝5時半を迎えた。

 その時点ではまだ小雨が降っていたが、見る見るうちに回復して、取りあえず、雷と雨は止んだ。正午までのスケジュールで船に乗り込むと、前日とはうって変わって海がウネっていることに気がつく。南寄りの風が波を立て、船は激しい上下動を繰り返す。だが、思ったよりも私は元気だった(笑)。むしろ、この揺れを心地よく感じ、今日こそマグロを目の前で見たいものだと心弾んでいた。
 エサのフクラゲは余裕があることから、今日はいきなりマグロ漁からスタートだ。

 ポイント到着後、エサを流していたところ、つい今しがた来て、右隣りに入った船にいきなり一匹がヒット。これには水嶋船長もマイッタ様子で「チクショー」を連発。縁起を担いだか、場所を移したところ、今度はまた左隣りにいた船に40キロクラスがヒット。もはやツキの無さを思い知れと言われているようなもので、アタリがないまま、正午を迎えてしまった。
 この二日間で、船の揺れが骨の髄まで染み渡り、陸に上がってからもユラユラと揺れていたが、今回は体のみならず、心までも揺れてしまった。泣く泣く、竜飛港に降ろしてもらい、家路についたが、このままでは終われない宿命のようなモノを痛感している。よって、次のチャンスを虎視眈々と狙い、スケジュールの調整を行なっているところである。
 近いうちに必ず、クジラのような大きいマグロを、この眼(まなこ)で見てやろうとリベンジを誓った。今後も注目して貰いたい。

↑タバコをくゆらせ、遠くをジッと見つめる船長。見せたいという気持ちと見たい気持ちがぶつかり合い、次第に複雑に(笑)。
↑ウネリがあり、激しく船は上下した。だが、私は強かった。オニギリもオシッコも無難に船上でこなしたのだった。
↑操舵室の丸いガラスみたいなのはなんのためにあるのかと思ってたら、疑問がようやく解けた。真ん中のモーターで回転させるため、水しぶきも吹き飛び、視界良好となるのでした。

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