Noguchi Cafe

 フロリダ編
1 セントピータースバーグ

 フロリダにはフロリダ・マーリンズ、タンパベイ・デビルレイズの新興二チームがあり、できることなら能率よく二箇所を廻りたいと考えましたが、距離的にも交通の便でも同じ州だからといって便利なことは何一つありません。マーリンズの方はレンタカーを使わなければボールパークへ到達することは全くムリ。しかもマイアミ近辺の一部地域はレンタカーに対しても治安上の問題があることなどがわかりましたのでこちらはあきらめ、フロリダではデビルレイズを観戦することとしました。インターネットによるチケットも、ネット裏の最高の場所が四人分まとめて1回のアクセスで取得できました。

 タンパベイという地名から、野球場はタンパ国際空港から遠からぬところだろうと決めてかかっていたのですが、調べてみると空港から車で1時間弱、タンパ湾を渡った西側のセントピータースバーグという田舎町にあります。湾を渡る道路は両側の海面が高く、ミニ・キーウエストといった趣です。途中の風景は絶景ですが、ホテルはダウンタウンを通り越した殺風景でほこりの舞い立つような内陸部にポツンとあって、周囲には建物らしきものはありません。ホテルの確保に難渋したことは前に述べたとおりですが、当初もくろんでいた野球場から徒歩圏内のホテルが実は廃業していたのがけちのつきはじめで、インターネットにも「あっぷるほてる」にも袖にされながらも、野球場まで車で30分ほどの宿が何とか見つかったのですから、もって瞑すべしといったところでしょう。

 旅装を解いてすぐタクシーでセントピータースバーグのダウンタウンに向かいました。まず商工会議所に併設されている観光案内所に立ち寄り、Looperというトロリーで一時間ほど市内を見て回ります。ダウンタウンと言ってもここは完全なリゾート地。商店街らしきものはありません。道路は広くてよく整備され、緑が整然と並び、東側を見れば雄大なタンパベイの天然ビーチにヨットが浮かびます。下調べのときに名前の出ていた豪華ホテルや美術館がいくつか、そのくらいがだだっ広い町の中心部のすべてです。

 地理的には町の中心とはいえませんが、案内所の辺りから東側にタンパ湾に突き出すような形で道路が伸びており、1kmほど行った先端にその名も“The Pier”という複合施設があります。その最上階(4F)にあるCHA CHA COCONUTS というカリビアンレストランを案内所で教えてもらったので、そこで早めのディナー。オープンエアのなかでタンパ湾が一望に見渡せ、名も知らぬ鳥が啄むのを眺めながらゆったりと過ごしましたが、時計をみるとまだ6時前。「今日は野球のナイターがあるはずだね。チケットはないけどダメモトで行ってみない?」とKの提案にみな賛同し、早速出かけることにしました。

2「おまけ」の野球観戦をあきらめる

 外に出てすぐタクシーを拾って・・・、というのが普通のパターンでしょうが、フロリダの田舎ではこうはいかないことを改めて悟りました。町の中心まで歩く間もタクシーなど全く見かけません。先の観光案内所がまだ開いておりましたので呼んでもらい、指定の場所で待つことになりましたが、なかなか時間通りにはやってきません。待つ間もタクシーの姿はどこにも見かけません。ようやく迎えのタクシーに乗ったときには7時半を過ぎておりました。

 車中での会話。

 私「ずいぶん待たされたねー。こんな交通事情では帰りの足が心配だね。このままホテルへ帰ったらどうだろう。」

 K「いや、大丈夫、何とかなるよ。」

 S「慎重にいこうよ。客待ちのタクシーがいたって、真っ暗な夜で見つけにくいし、ムリはよそう。」

 衆議一決、というわけではありませんでしたが、妥協の産物で野球はあきらめ、ホテルへ戻りました。

 「あの葡萄は酸っぱい。」と言った狐の話みたいなものですが、この夜の試合は地元のタンパベイが1回表に5点を取られ、9対0で負けていますので、私たちが入場できたとしても8時ごろでしょうから、その時点では大勢は決しており、ゼロ行進の凡戦を見る羽目になっていたでしょう。

 野球観戦はナイターとし、昼は目いっぱい観光するのが効率的、ここタンパでも当初はこのゲームを観る計画でした。ところが「地球の歩き方」に「野球場は徒歩圏内」とあったホリデイ・イン系のホテルが何らかの事情で系列を離脱していたためアクセスすらできず、野球場近辺にはホテルはないことがわかりました。ここからホテル探しの難渋が始まったのですが、偶々翌日にデーゲームが組まれておりましたので、帰路の足の確保のことを考え、計画を変更した次第だったのです。

 何ゆえにこんなところに何万人も収容する施設があるのか、アメリカが自家用車社会であることを象徴する事例でしょう。ここへは遠くマイアミあたりからも日帰りの観客も多いと聞きます。そしてここは全米一駐車場が充実しているボールパークだ、ということです。

 私たちが最後に訪れるテキサスレインジャーズの球場は、全米一アクセスが不便なのだそうです。

 来るときは地下鉄で苦労したので帰りはタクシー。ものの10分程度でホテルに帰着しました。

3 トロピカーナ・フィールド

 6月14日、朝からやや曇り気味でしたが、今日はドーム球場ですから天気は観戦には関係ありません。今日のゲームはタンパベイ・デビルレイズが本拠地トロピカーナ・フィールドにサンディエゴ・パドレスを迎え撃つ3連戦の第3戦。おとといからの勝敗は、タンパベイから見て 初戦が11ー4、 第2戦が0ー9ですから今日はいわば決勝戦。

 Kと私とは3年前にこのカードを観戦しています。場所はサンディエゴで、そのときは上り調子のタンパベイが勝ちましたが、パドレスの大塚が負け試合ながらクローザー役を立派にこなしたのを記憶しています。今回は日本人選手は、両チームを通してタンパベイの岩村明憲ただ一人です。

 試合開始前は球場内探索が私たちの定石ですが、ここの目玉はチーム名の「デビルレイ(“Devilray”)」の水槽です。「デビルレイ」はランダムハウス英和大辞典によると「オニイトマキエイ」と訳され、体幅7メーターを越えるものもあるが、性質は温和、と説明されています。なぜDevilなのか。“Ray” は「えい」(漢字で「魚ヘンに覃」)で、欧米では「えい」は「悪魔の魚」とされる・・・、これは「ジーニアス英和辞典の説明です。ともあれ、バックスクリーンのすぐ右に直径2m程度の水槽に菱形で平べったい小型のえいが何匹も泳いでおり、整理券(無料)を配って順繰りに見せてくれます。何とも気の利いたサービスです。
 
写真は水槽の「えい」。細くて長い尾も特徴の一つだそうです。K氏提供

 チームの2007イヤーブックを売っておりましたので求めました。中身はチーム発足以来の監督、コーチ、全選手を網羅した写真付きの名鑑ですが、チームの歴史が浅いからこそできることです。たとえば、2006年に西部ライオンズから入団した森慎二投手、この選手のことは忘れていましたが、キャンプ中の怪我で公式戦に一度も登板せずにチームを去りました。その森選手ですら6行ほどのコメント付きで写真が掲載されています。いわんや野茂投手の扱いはウエイド・ボッグス、ホセ・カンセコ 並みの大きさです。野茂は2005年に4ヶ月在籍しただけで、5勝8敗、防御率7.24とチームに大きな貢献をしたわけではありませんが、それでもこの扱い。特異の経歴や、失敗も多いが真正面から挑みかかる姿勢がアメリカ人の共感を得ているのでしょう。そういえばこのときを最後に、野茂はMLBのマウンドに現れていません。この名鑑を眺めていると、今や他のチームの中核として活躍している選手や、功成ったベテラン選手がある時期このタンパベイ・デビルレイズに籍を置き、活躍したさまがよくわかり、トレードの激しいMLBならではの興味がわいてきます。

4 サンディエゴ・パドレス7−1タンパベイ・デビルレイズ

 ウイークデイにデイゲームということは、今日は何かの祭日なのですがわかりません。開門と同時に入りましたので、試合開始まで十分時間があります。Kと私とが魚を見ようとバックスクリーンの方へ探検に出かけているとき、M氏は両軍のベンチ付近へ偵察に出かけます。

試合開始前、バックスクリーンから見た
トロピカーナフィールドの全景。K氏提供

 M氏談「試合前の練習量が少ないですね。前日ナイターで今日デーゲームのためかも知れないが、日本に比べての練習の軽さに驚きます。岩村のサインを貰うつもりでベンチ近くのスタンドで待っていましたが、グラウンドに現れたのが試合開始5分前位だったので結局貰えず。代わりにグローバー投手のサインを貰いました。この選手はリリーフに登板しましたが、後日、06年読売巨人で20試合に出て、5勝7敗の成績であったことが分かりました。」

 私は日本の野球には疎くなり、このJohn Gary Glover投手の巨人での活躍ぶりは承知しておりません。統計資料によると、MLBでの通算成績は27勝23敗、防御率5.00。MLB4年目のホワイトソックス在席時には先発5番手に擬せられるまで成長したが、その後は伸び悩み気味といったところがうかがえます。今は日米間の選手の交流が多く、レベルを比較する材料に事欠きませんが、一流選手だけでなく、こうした中堅どころの選手をキーにして比較するのも一興かと思い、調べてみた次第です。

 試合は1回表にパドレスが1点を先制したまま膠着状態、双方の先発投手は役割を終えて降板。デビルレイズは8回表、無死二塁の場面でM氏がサインを貰ってきた前巨人のG投手を2番手として送ります。この前巨人氏、一昨日は2点リードの8回に登板し、3人を片付け、今期3つ目のホールドを得たばかりなのですが、今日はどうしたことかいきなり滅多打ちに会い、4安打3失点ですごすごと降板。勝負はここで決しました。

 このゲームに限ってはG投手は戦犯でしたが、同投手の名誉のために言えば、今シーズン終了時点での成績は防御率4.89、6勝5敗、投球回数はチーム6番目ですから合格点です。チームは投手陣が弱体ですから、来期は先発を含めて期待できるでしょう。

(G投手の記述に力が入りましたが、同投手に関する情報はM氏から後にもたらされたもの、観戦中はこの事実は知りませんでしたから、そんなに気合を入れて見ていたわけではありません。)

 MLBの選手の異動の激しさは毎度見るところですが、3年前から本日まで継続して両チームで活躍している野手はたった3名(デ軍クロフォード、パ軍ジャイルス、グリーン)。つまり3年も経つとチームの様相が様変わりしてしまうのです。そういえば今日デビルレイズの敗戦処理に出てきたウィスタシックは1週間前にオークランドを馘首されて入団したばかり。そして3年前に見たこのカードではパドレス側の敗戦処理投手でした。試合を見ていても、「あの選手は前にはあそこのチームにいたのでは?」と思うケースは枚挙に暇はありません。

 我々の期待の岩村選手は現地では「アキノリ」と親しまれている模様。打率も3割を超えて好調ですが、今日は4ー1で特段のことはなし。守備では難しい場面で三塁にゴロがよく飛びましたが、無難に捌いてこちらも特段のことはありません。

 結局この3連戦は遠来のパドレスが勝ち越したわけですが、ナ・リーグ西地区の首位をいくパドレスを相手に、ア・リーグ東地区最下位のデビルレイズには荷が重かったと言わざるを得ません。

 ゲームが終わって出てきたのが16時ごろ、車ラッシュの中で空車が見つかりました(夜だったら車が居たかどうか、見つかったかどうか何ともいえないところです)。もう観光するところもありませんので、再び“The Pier”へ向かい、昨夕のワンフロアー下で軽食を取ってホテルへ戻りました。

 翌日の出発は朝6時です。「念のため、タクシーの予約をしておこう。」ぐらいのつもりだったのですが、これが良かった。翌朝出てみるとフロントもロビーも閉鎖されています。ホテルのフロントは24時間開いているのが私たちの常識ですが、アメリカの田舎ではそうは行きません。裏木戸みたいなところを通って表へ出ますと、予約のタクシーがオンタイムでやってきました。「予約は朝でいいだろう。」などと言っていたら混乱するところでした。

 早朝のフロリダに別れを告げ、次の訪問地ヒューストンへと向かいました。

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