前夜のオシッコは大変だった。夜中もほほ90分おきに起こされ、ほとんど寝る間もなかった。もうヘロヘロである。そんなところへ駄目押しの利尿剤ラシックスが午前８時に打たれてしまった。９時までの１時間で今度は５回、トイレに走った。それにしても、この薬、ものすごいパワーがある。投与されてものの10分もしないうちに、尿意を催してきて、一度、トイレに行くともう止まらなくなる。それも今、済んだばかりなのに次の尿意をもう感じるんだから凄い。

↑横になりながらのラジオは最高

　月末から出ていた皮膚の赤みが消えてしまった。赤川先生は「赤みは出て欲しいな。今は患者さんの状態に合わせて、免疫抑制剤を強過ぎず弱過ぎず投与してますが、もしかしたら少しだけ強いのかもしれない。それで消えたと考えられる。よって今晩からはサンディミュン500mgだったのを350mgに減らして見ますね」と言った。が、しかし、この後も赤みがなかなか出てくれない状況が続いた。

　スーパーボウルをじっくり見ることができた。かつてはメジャーリーグに入れ込むのと同様、かなり熱が入ったもんだが、その後、いろいろやることが増えたために遠ざかっていたのがNFLである。今年は６月からいくらでも時間があったので、10数年ぶりにレギュラーシーズンから見てきた。ほとんどの選手が居なくなる中、ほんの何人かがまだ頑張っている事を知り、驚く。また二世が大活躍するなど、世代交代もしっかりされており、いまだ高い人気を保つのも当然だなと納得した。
　さて、スーパーボウルの結果は大多数が予想した通り、コルツの勝ち。完勝である。ベアーズのQBが全くボールを進めることが出来なくては勝てるわけがない。試合前は好ゲームを期待してたが、進むにつれてそれはムリだとわかり、見応えという点では物足りない第41回スーパーボウルになってしまった。

　いつまでもフルカリックの栄養だけで生かされてるのも悔しいので、病院食のお昼分だけスタートしてみた。それも素うどん。まだ味覚に自信がないのでおかずなどは一切ナシ。見た目はとても寂しい。つゆとうどんしか無いのだから。チュルチュルすすりながら、みそぼらしさを感じてしまった。

　午後４時、白木先生がやってきて「申し訳ないけど、大部屋に移って貰います。急きょ、個室患者が発生し、誰と入れ替えれば良いのか相談した結果、一番、元気の良いあすぱむさんに決まりました」
　ひえぇぇぇ〜、今回も突然だよぉ〜。
　でも、そろそろ個室生活も飽きてきた頃だし、ココ、暑いし（28℃もある）、環境を変える意味ではいっか。問題はどんな部屋のどの位置かである。大林ナースに尋ねると「６人部屋の窓側みたいよ」。キャホ〜、ウレＰ。

　わずか30分後、慌ただしく個室を出て新たな部屋へ引っ越ししていた。お〜、いいじゃん、いいじゃん。６人部屋だが、ベッドは５つしか置いてなくて、実質５人部屋である。それも私の隣りがベッドのないスペース。すごく広々した感がある。気温がまた26℃とちょうど良い。この部屋が退院まで過ごす最後の部屋になるとしたら文句ナシだ。

　前日、皮膚生検術の結果が「GVHDである」と出て、ひと安心。GVHDは肝臓、腎臓、肺以外の軽いモノならいくら出ても良い。大歓迎である。４〜５日前から出始めた咳もそれらしいのだが、こいつはちょっと苦しいので厄介だ。就寝時間になり、横になると激しい咳が出る。咳を出すと一旦はノドが楽になるので、次の咳が来るまでに眠らなければ、ずっと眠れない。こんなタイミングで寝るなど無理なので、眠剤アモバンを出してもらう。初日と二日目までは効果があったのだが、その後はなかなかうまく眠れない日が続いている。

　手の甲がこむら返りをする。こんな話、聞いたことがないと思うが、あるんです。小指が付け根からピクピクしていたので、なんだろと見てみたら、けいれんしてる。それ以降、親指や中指の付け根が同じくピクピク。対処に困った。しょうがなく、指５本を反らせたら収まったので、これで良いのだろう。
　主治医によると「こむら返りは移植によるものだろう。今後もいろんな症状が出る」とのこと。

　昼食の素うどんが手違いで「素うどん定食」で来てしまった。おかずがついているのだ。戻そうか迷った揚げ句、どれだけおかずを食べられるか試してみようとなって、そのまま貰うことに。なんと、おかずにはトマトやレタスなどの生野菜が混じっている。もう八ヶ月も食べていない。トマトを口にしてみた。味がする、トマトの。
　どうやら味覚は戻りつつあるようだ。このことが自信になって、翌日から朝、昼、晩の三食をスタートさせることになった。

　先月13日以来、約３週間ぶりのお風呂に入った。気持ち良かったなぁ〜。

　皮膚の赤みがなかなか出ないため、先生も苦労しているようだ。今のところ、いじくっているのは免疫抑制剤サンディミュンの投与量である。抑制剤の量が多いとGVHDが抑えられてしまい、逆に少ないとGVHDが強く出てしまい、患者に大変なダメージを与えかねない。この辺の増減をうまく操作してGVHDを出して、それが慢性GVHDに持っていければ最高のケースになる。

　「当分は今の量（25mg）でいきます。好酸球が増えてきているから、GVHDが出てくると思うんだけど」と白木先生は言う。ん？「こうさんきゅう」？初耳だ。説明を聞くと、どうやら好酸球はGVHDだと考えて良いらしい。
　では、その数値はどうか？
　2/2から２日おきに11.8、29.0、32.4、そして今日が32.1と確かに増えてきた。先生の言う通り、目には見えないけど、数字には現れているんだなぁ。血液検査の結果用紙にはたくさんの項目があって、それぞれ何を意味するのかをすべて理解するのは不可能だが、何かのきっかけである項目がわかると楽しくなる。

　今日の担当看護婦に佐藤さんがなる。
　２月からＡ、Ｂ、Ｃ各チームのナースに移動があり、ＡからＢへ石坂さんが、ＣからＡへ佐藤さんが移ることになった。本日、その佐藤さんが初めての担当となったわけである。今後のお付き合い、お手柔らかにお願いしたいものだ。

　せっかくの三連休だが、どうすることもできず、ただただ時間の過ぎるのを待った・・・って感じ。

　ただ一つだけ衝撃的なことがあった。
　咳が出るようになってから、酸素飽和濃度が94付近をうろつき、我ながら、ちょっとイヤな予感がしていた。
　11日朝、先生が突然現れ、「太ももの動脈から採血します」と言った。ぎゃぁ〜、恐れていたあの採血だぁ〜。
　右足の付け根にブスッと刺すのだ。おそらく先生には私の大事な部分の一部を見られたかも知れない（笑）。
　冗談はさておき、この注射、痛いのもあるが、怖い。何しろ、オチン○ンのすぐ脇にブスッなのだから。しかもである、一回目が失敗。静脈から採血してしまったらしい。都合悪くなったか（笑）、何も言わず、右腕から採ろうとしていたが、やはり正式に行こうと思ったようで「はい、もう一回、お願いします。ゴメンね」ときた。歯を食いしばって二度目に耐えた。無事に採血が終わり、午後、結果が出た。「全く問題ナシ」。ふ〜〜、良かった。

　真向かいにいた患者さんが個室に移り、代わりに個室からお年寄りがその場所に入ってきた。杖をついてゆっくり歩くご老人である。だが、耳が遠くなっているようで何度も同じことを看護婦に言わせている。
　私がパソコンを操作していた時、このご老人、近づいてきてひと言、言った。
　「アップルだが？」
　いやぁ〜、びっくり。目を丸くしながら「そうです」と返事。
　「オーイスはなんぼだ？」
　ありゃまぁ〜、またまたびっくり。「テンです」「んがぁ？」「（少し大きめに）テンですぅ！」「んだが」
　「○○さん、パソコンをやられるんですか？」「ん〜、ちょっとな。目が悪くなってがらはダメだ。アップルはウイルスに強いんだいな」「はぁ〜、良くご存知で」

　そんな短い会話だったが、驚き具合は相当なモノである。このおじいちゃんがパソコンに知識があること事態、奇跡みたいなもんなのだから。少しカッコいいジサマにも思えてきた。

　そのおじいちゃんも翌日には退院して行った。わずか一日の滞在だった。
　このことをナースに話すと、彼はもう90歳近い高齢だという。非常に物知りなのは有名なところだが、ひとつ、話が始まると長くなるのが難点で、ナースの間ではどこで話に区切りを付けるか苦労するところらしい（笑）。物知りというのには根拠があった。新聞をくまなく読んでいる姿を見ていたので、なるほどなと納得した。

　昼に胸部レントゲン検査。結果は異常なし。

　咳止め内服薬「フスタコデイン」のみでは収まらないため、もう一つ「メジコン錠」を追加するが、あまり改善されず。

　物知りジイサンのあとに入ってきた安木ジイサン（仮名）がとんでもなく迷惑な患者だった。ＴＶの音は垂れ流し、付き添いのバアサンとの会話で昼寝も出来ず。ナースにイヤホンを付けてＴＶを見るように注意され、一旦は静かになったものの、ころ合いを見計らって、再び、音を出す。平和だった部屋に一気に嵐が来たようだ。
　消灯後の午後10時、静まり返った室内にいきなりＴＶの音が鳴り響いた。ナースを呼ぶと、安ジイが眠れなくてスイッチオンしたという。その後、自分は眠剤を飲んだため、グッスリ寝てしまった。

　朝、起きると、安ジイのベッドがない。どうしたことか？どうやら夜中に病棟内を迷子になり、徘徊して歩き、一時的に個室へ隔離されたのだとか。これが二晩続き、病院側は家と病院の環境の大きな違いに戸惑っているのだろう。本来の入院時の病気は完治しているので、退院しても可。ということで17日の午前、ご自宅へお戻りになられました。

　なお、この日は血糖値を700にも上げて再入院の若者が隣りのベッドにやってきた。これもまたつわもので、携帯で堂々と電話するわ、声がでかくてうるさいわ、他の住人はパニック。糖尿病で一度、入院し、いろんな知識を身に付けて退院したはずなのに、70キロだった体重を90キロに増やしてしまったという。糖尿病に対する甘い考えが将来の危機的状況を引き起こすというのに涼しい顔である。呆れてモノが言えなくなった。
　この患者、夕方になって別室の空いたベッドへ引っ越ししていき、一件落着。

↑バクタはどれでしょ？

　左の写真は現在の主な飲み薬（錠剤の部、粉薬も別に有り）であるが、バクタは下段の左から２番目。とりわけ大きいのがわかると思う。サイズを測ってみたら、直径12ミリ。以来、十分注意しながら飲み込むようになった。

↑ネオーラル

　夜は相変わらず、しつこい咳に悩まされる。仰向けで寝られないのが辛い。横向きに寝るといくらか緩和されるため、常にその姿勢で寝ている。そのおかげで肩が痛くなってきた。また電動ベッドで上体を少し起こし気味にしている。リモコンでウィーウィーやるだけで上下し、とても便利である。

　ネオーラルの量が２錠ずつ、朝晩20mgまで減った。何かが起こるのは確実で、内心穏やかでいられない。
　白木先生「変化ありませんね。明日から10mgに減らしてみますか？」
　うむむむ、ついに１錠ずつか。絶対、起こるな、何か。

　８時間で650ccのオシッコを出す。これが自分に課せられたノルマである。簡単なようで意外にきつい。
　夜の９時半、もう寝ようかという時、尿量をチェックしたら300しかない。タイムリミットは午前０時。あと２時間半で350はかなり厳しい。もしクリア出来ないと、強制的にオシッコを出す注射「ラシックス」を受けなければならないお仕置きが待っている。半分、諦めつつ、床に入る。だが、気になって眠れない。
　午後10時半、トイレに行ってみた。
　チョボチョボ・・・ポッチョン。あぁ〜、100しか出ない。もうダメだ。お仕置き覚悟で寝た。

　だいぶ寝たような感じがして、時計を見た。午後11時50分。尿意もある。まだ間に合う。急いで駆け込み、カップに出した。ジャバジャバジャバ（すみません、下品な表現力しか出来ないものでして）。さぁ、いくら出たか？カップの目盛りを見て、ガッツポーズ。ギリギリセーフの250cc。トータル650をクリアして熟睡したのは言うまでもない。

　この日、仲間がついに力尽きた。
　自分と同じMDSで入院し、昨年９月に移植を受けたのだが、その後の回復が思わしくなくて準無菌室にずっと缶詰めになっていた。時々、部屋を出ることがあって見かけることはあったが、あまり元気がないので、声を掛けるのも遠慮してしまう。独りぼっちの無菌室に入って約半年。結局はそこからみんなのいる大部屋に移って「帰りました」の挨拶をすることなく、彼はそっと消えてしまった。
　享年32歳。まだやりたいことがたくさんあっただろうに。合掌。

　前日からネオーラルが１錠、10mgずつになっていた。今日が二日目。
　朝の回診で私の様子をじっくり観察した白木先生が「なにも変わりませんね。明日からナシにしてみますか？」
　だが、昼ごろからなんだかだるくなる。食欲もなく、ほとんど口にすることなく、返却した。
　午後２時、急に悪寒が襲った。肩から指先にかけてブルブルと寒気が走る。熱は一気に38.8度まで上がっていた。すぐに布団に潜り込み、頭を冷やし、おとなしくじっと寝た。

　夜、採血。この熱が何によって引き起こされているかのヒントが隠されているかもしれない。
　就寝間際に解熱剤を投与してもらう。効果てきめんで、汗がたっぷり出たあと、朝までには平熱に戻った。

　咳が肺炎を引き起こしていないかを確認するための胸部レントゲン撮影を行なう。結果は「異状ナシ」。

　夕方、第３回筋力測定。過去３回のデータが今、手元にないので比較できないが、それほど筋力は落ちていないように思う。松山ナースにデータ提供をお願いしたんだが、忘れてるのかな？いずれまた催促してみようと思う。

　この測定のあと、目の間がポカポカしてきた。どうも発熱の合図に思える。
　午後５時。38.6度の熱が出る。ほらほら来たぞ。前日に続く「熱GVHDだ！」・・・・・と思ったら、８時頃、妙に体調がイイ。何もしてないのにおかしいなと、熱を計ると37度台まで下がっていた。また上がるさと思うのに反して、どんどん調子は良くなり、就寝時に予定してた解熱の注射が無駄になった。せっかく作ったのにもったいない。
　そのまま布団に入ったが朝まで熱は出なかった。咳には相変わらず苦しめられている。

　26日から始まった発熱だが、この日が一番厳しいものになった。

　午前10時半、いつものパターン通り、悪寒がしたあと、熱がグングン上がり、38.8度を記録。正午に解熱剤「メチロン」を投与して一旦下がったのだが、午後３時に再び上がる。今度はパワーアップして39.7度まで上昇。解熱剤の効果が全く無視された格好だ。まだ先の解熱剤とダブる時間帯だったため、新しい解熱剤「メピオン」は午後４時まで待たされた。

　たっぷり汗が出て着替える。この発汗により、咳の出方が弱まり非常に楽になった。渇ききった食道や肺の中などにも汗のような水分が潤ったので、咳が出なくなったのだろうか？久しぶりに感じるノドのスースー感であった。

　午後４時、待ってましたとばかりメピオン投与。熱は当然、まもなく下がった。今日はこのまま終わるものとばかり思っていた・・のだが。
　午後７時、阿保ナースの定時回診では36.1度。部屋を出て、わずか５分後、あの悪寒がブルブルっと来た。とてもイヤ〜な予感。つい先程、阿保ナースと「熱が収まって良かった、良かった」と話をした直後だけにバツが悪い（笑）。
　ナースコールを押す。アイスノンを持ってきて貰って頭を冷やし、次はどうするのか尋ねる。阿保ナースも困り、白木先生と相談してくると言い残して消えた。

　ＴＶで北京五輪サッカー予選を見ていたが、さすがにきつくなってきたので前半のみでスイッチオフ。布団の中で唸っていると白木先生がベッドの横に居た。
　「キツイですか？」「非常にキツイですね」「それじゃ、サクシゾンを使いますか」「お願いします」

　ステロイド剤「サクシゾン」。とても強力な薬で過去にも何度、この薬で救われたことか。ただ、今回はこれの投与によってすべてのGVHDが消されてしまうので、使用をためらっていた。が、今が旬である。
　午後９時、39.6度。サクシゾン投与・・・・・11時には36.9度に落ちていた。大汗による二度の着替えと共に。

　二月がようやく終わった。